映画賞のシーズンが本格化している！今月初めにエミー賞10部門を受賞し、絶賛されたFXプロダクションの『The Bear』もそのひとつだ。このシリーズをまだ見ていないなら、ぜひ見るべきだ。感情の花火であり、足が地面に着くまで息を止めさせるジェットコースターのような乗り物だ。しかし、それはどのように機能しているのだろうか？この番組が私たちを虜にする最大の理由のひとつは、卓越した感情編集にある。ここではいくつかのシーンを分解し、編集者の視点から見てみよう。
エミー賞の審査員たちは『The Bear』を「コメディ」部門に入れたが、日常生活にユーモアを見出すだけでなく、それ以上のものがある。このシリーズは、若く才能あるシェフのカーミー（演：ジェレミー・アレン・ホワイト）が、シカゴにある兄の古ぼけたビーフサンドイッチ店を突然受け継ぐことになる。2シーズンを通して、彼は物事をうまく進めようとするが、その一方で彼と彼のチームのメンバーは、喪失感、悲しみ、怒り、不安、アイデンティティの危機、ストレスといった問題に対処していく！
脚本、撮影、演技は素晴らしく、これらの感情をストレートに私たちの頭に伝えてくれる。さらに、この番組の激しさを極限まで高めているのは、間違いなくその型破りな編集だ。
『The Bear』の編集におけるスタイルの選択
まず最初に、『The Bear』を見た人なら、このシリーズが次のようなものであることに気づくだろう：a）従来の現代ドラマに見られるような、編集を見えなくする通常の方法に従っていない。時々、視聴者はクレイジーなテンポ、速いカット、ほとんどストレスになるほどの動きのあるショットやトランジションを目にする。しばらくすると、編集者は静かで抽象的なモンタージュ・シークエンスを見せる。突然、シーズン中盤の全エピソードが壮大な一発芸のように演じられることもある（それでもまた、強烈に感情的な視聴体験を生み出す）。
『The Bear』における編集の決定は、特定のスタイルに依存していないように思えるが、これは常に最善の方法でストーリーに貢献できるようにするためだ。編集者は、登場人物の頭の中で何が起こっているのか、今彼らに何が起こっているのかを正確に感じさせようとするからだ。以下のモンタージュはエピソードからの直接のカットではないが、番組のエネルギーとキッチンの混沌をきちんと理解させてくれる：
この編集スタイルが採用されているのは、かっこよく見えるからではなく（確かに楽しい作業ではあるのだが）、私たちをキッチンの雰囲気の中にテレポートさせてくれるからだ。
人々は指示を叫ぶ： 「隅」「後ろ」と叫ぶ人々、絶え間なく流れる注文のレシート、不穏な大音量の音楽、たくさんのアップ、クラッシュズーム、刻々と流れる時間……これらすべてが、見ている視聴者のコルチゾールレベルを急上昇させる。このような厨房で働いていた友人がいるが、不気味なフラッシュバックを起こすと言う。もちろん、編集の驚異的なペースは、これらのシーンのインパクトに貢献しているツールのひとつにすぎない。
ハイテンションとハイコントラスト
『The Bear』の厨房シーンの編集のテンポの良さは、作り手が2つのことを覚えているからだ。第一に、彼らはどのピースを組み立てるかに注意を払っている。編集者の一人であるジョアンナ・ナウグルが『The Editing Podcast』で説明しているように、彼女がこの種のシーンをカットするときはいつも（番組の素晴らしいイントロモンタージュのように）、エネルギーが炸裂するショットがたくさん必要になる。彼らはすべての映像に目を通し、意図的に適切な種類のクローズアップ（例えば、時計のダイヤルを合わせたり、誰かが火を起こしたりする）を選び、動きのある映像（スナップズームやクイックパンなどのカメラテクニック、フレーム内のアクションなど）を加える。ハイペースなシークエンスでは、どのショットもエネルギーを吸い取ってはならない–彼女が絶えずダブルチェックしているのはこの点だ。
2つ目の重要なツールは、高いコントラストだ。登場人物が混沌から抜け出し、意味のある会話をしたり、内的解放を感じたりするスローシーンも含まれる。良い例が、裏庭でのカーミーとシドニーの対話で、両者とも壊れかけていて、小休止が必要な場面だ。ストレスの多い地獄のようなキッチンに戻る前に、観客が彼らと一緒にくつろぐ瞬間でもある。
Does this rich-in-contrast approach make us feel like we are on an emotional rollercoaster? Yes, it does.
『The Bear』の編集でリアクションショットを使う
しかし、私たちを激しい感情に駆り立てるのは、キッチンのシーンだけではない。シーズン2の驚異的なエピソードのひとつに、カーミーのバックグラウンドストーリーを観客に少し見せる『Fishes』というのがある。家族の集まりでありながら、喜んで避けたいタイプだ。個人的には、このエピソードを見た後、眠れなかった。
終盤のあるシーンが印象的だった。大音量の音楽、延々と重なり合う台詞、キッチンからの混沌とした音、俳優たちの素晴らしい「ハラハラする」演技が激しくミックスされた後、ようやく家族が座り、すべてが静かになる。しかし、激しさはまた別の極限へと向かう。このシーンの一部をご覧いただきたい：
なぜこんなに激しいのか？ジョアンナ・ナウグルがこのシーンで使っている編集ツールのひとつに、リアクション・ショットの優先順位付けがある。そう、テーブルディスカッションのほぼ半分において、私たちは発言したり行動したりする者ではなく、それを見て反応する者を見ているのだ。怒り、戸惑い、恥ずかしさ、不安といった感情が周囲に浸透し、私たちもそれを感じる。ジョアンナがインタビューで語っているように、彼女は演技の中でこうしたリアクションの瞬間を正確に見つけるために、何時間もの映像を見続けなければならなかった。
何が起こっているのかに対する人々の反応を見ることで、シーンの緊張感を高めることができます。そうすることで、みんなの頭の中を可能な限りつなげることができます。
編集者の一人、ジョアンナ・ナーグル
『The Bear』の全シーンにおいて、主人公カーミーは沈黙を守り、一言も言葉を発しない。しかし、葛藤に対する彼のさまざまな反応とその変化を見ることで、私たちは確実にこの人物の感情の弧をつかみ、その後の彼の人生に大きな影響を与える彼のバックストーリーの多くを理解することができる。
キャラクターの視点を確立する
多くの登場人物がいるシーンを編集するのは、大きな挑戦かもしれない。誰が誰を見ているのかを把握し、設定の正しい地理に従うだけでなく、それぞれのショットをシーン全体の流れやペースに合わせる必要がある。
MZedのコース “The Art and Technique of Film Editing “では、熟練した編集者のトム・クロスが適切なレッスンをしている。『ウィップラッシュ』の似たようなテーブルシーンを例に、彼はこの種のシークエンスにアプローチする方法をいくつか紹介している。
まず彼の意見では、自分自身に問いかけるべきだ： 「この登場人物の頭の中に入り込むようにカットするにはどうしたらいいか？トムは黙って編集することから始めるのが好きだ。『The Bear』でリアクションショットを使ったのと同じようなアイデアだ。
もうひとつの重要なヒントは、脚本を読み直して誰のシーンなのかを確定することだ。主人公はいるのか？誰の視点を伝える必要があるのか？ウィップラッシュ』の例で言えば、それは間違いなくアンドリューであり、話し合いが進展するにつれて彼の態度が激変する。
前述の『The Bear』のシーンのように、2人の登場人物の対立がシーンの中心になっている場合、トムは最初にそのやりとりだけを編集し、そこに強い重点を置くことを提案する。その後、そのシーンに他の人物をどのように組み入れることができるかを検討し、その中で彼らに場所とゴールを与えることができる。
クローズアップと反復ショットでキャラクターのアークをサポートする
リアクションショットは、一般的に『The Bear』において重要なテクニックであり、編集者はストーリーテリングの理由、例えばキャラクターのアークを伝えるためにも適用する。例えば、キャラクターのアークを伝えるためなどだ。ここでの完璧な見せ場は、「フォーク」というエピソードでのリッチーの成長だろう。当初、彼は高級厨房レストランでのインターンシップを嫌い、それを罰だと考えていた。しかし、彼が目の前で起こっている大変で正確な仕事を観察し、感謝するようになる様子を見てほしい：
私は、リッチーが内面化し、物事を受け止める様子を、彼のアップの瞬間や盗みのような表情で表現しようとしました。
編集者の一人であるアダム・エプスタインは、このインタビューでこう語っている。
時間は編集者が自由に使えるもうひとつの重要なツールだからだ。1つのショットに何秒かけるか、そしていつその瞬間から切り離すかは、視聴者がキャラクターをどのように認識し、彼らにどのように関わるかに影響する。リッチーが話を聞き、学ぶときの目の素早いアップは、特に私たちがすでに彼を知っているため、ここでは効果的だ。彼の演技を余韻を残し、彼のキャラクターを深く理解するための長いシークエンスは、すでに十分にあったのだ。
もうひとつ特筆すべき編集ツールは、反復ショットの使用である。例えば、「フォーク」のエピソードは目覚まし時計のアップから始まるが、そのシーンの後半で、それが何度か繰り返され、キャラクターの進歩を視覚的に示している。当初、リッチーは苛立ちのあまり時計を叩くが、物語が進み、彼が絶好調になると、目覚ましが鳴る前に起きている。そして気分が落ち込むと遅くまで眠る。
『The Bear』の印象的な編集ツールとしてのモンタージュ
すでに述べたように、『The Bear』には美しいモンタージュ・シークエンスもたくさんある。時には抽象的な表現もある。例えば、シドニーが街を旅して新しいレストランのメニューのインスピレーションを集める場面では、編集が実にクリエイティブになる：
ここには何が見えるだろうか？台詞はほとんどなく（ほぼ全エピソードで！）、説明も台本通りのシーンもない。この特別なシークエンスは、どちらかというとドキュメンタリー・スタイルで撮影されたため、編集がストーリーテリングに代わっている。ジョアンナによると、このシークエンスの背後にあるアイデアは、創造的なインスピレーションがどのように見えるかを視覚化することだった。そのため、彼女は映像間のつながりを見つけようとし、マッチカットや音楽、そしてもちろん俳優の顔のアップを多用した。私たちは、シドニーが何かを味わうときの口元や、新しい考えやアイデアを思いついたときの目を見る。ここでもまた、彼女のリアクションが、凝った台詞を必要とせずに、この静かで感動的な物語を物語っている。
サウンドとサウンドがもたらすもの
カットが10フレームしかないことが多い場合、音は非常に重要になる。視聴者がテンポの速いシークエンスの内容を理解しやすくするのに役立つし、それは『熊』にも当てはまる。例えば、フライパンの中のステーキが一瞬しか見えないが、事前にそのヒシヒシという音が聞こえていれば、知覚のチャンネルを1つではなく2つ使うことになり、点と点がより早くつながる。モンタージュをシームレスに接着するのに役立つ、とアダム・エプスタインは説明する。彼はまた、この番組に携わった時ほど、サウンドデザインに取り組んだことはなかったと述べている。完全なサウンドベッドを作成し、異なるストーリーパート、キャラクター、ロケーションのオーディオトーンを設定することは、『The Bear』でも実に大きな編集ツールとなった。
ちなみに、アダム・エプスタインはMZed.comで編集に関する詳細なコースを公開しているので、彼がさまざまなワークフローやストーリーテリング、さらには技術的な課題にどのように取り組んでいるのか、もっと詳しく知ることができる。
Full disclosure: MZed is owned by CineD
特集画像の出典 2023年、クリストファー・ストーラー（FXプロダクション）による「The Bear」のフィルムスチール。
